「北方領土はわが国固有の領土です」
1度は聞いたことのあるフレーズだと思います。
日本政府は一貫してこのような主張をしていますし、多くの日本人にとってもそれは「真実」
ところが、「北方領土はロシアが強引に実効支配した!」とカンタンには断言できないところもあります。その鍵は「北方領土」という呼び方にあるのです。
まずは、ハボマイ、シコタン、クナシリ、エトロフの各島の領有問題を考えてみます。
4島の領有問題
「千島列島」はどの領土なのか?
1945年、日本の敗戦直前の話。
連合国(アメリカ、イギリス、ソ連)はすでに戦争の勝利は揺るぎないものとして、敗戦国の処遇を決めました。それぞれの「取り分」を確認しあったわけです。
このヤルタ協定により、歯舞諸島など4島がソ連に譲渡。
第二次大戦敗戦後、日本は1951年のサンフランシスコ条約までは連合国の統治下にありました。この条約が1952年に発効するまで、日本は独立国家ではなく、主権は連合国にあったわけです。
そして、日本はサンフランシスコ条約において、「千島列島」を放棄しました。
しかし、日本政府は1956年にある主張をはじめます。
「千島列島にクナシリ、エトロフは含まれない。千島列島と南千島(クナシリ、エトロフは千島列島の南にあるため、南千島と呼ばれていた。)は別物である」
と。
①日本政府はサンフランシスコ条約で「千島列島」を放棄した。
②千島列島にクナシリとエトロフは含まれない。
③そもそもハボマイとシコタンは千島列島ではない。
④よって、ヤルタ協定でソ連に譲渡したこれら4島は日本の領土である。
正直、日本人から見てもヘンな理屈だと思いませんか?
まず千島列島のうち、南千島は千島列島に含まれないというのは、「日本列島に沖縄が含まれない」というのと同じくらいおかしな理屈です。
「北方領土」の誕生
つぎに、ハボマイとシコタンを譲渡したヤルタ協定がどうしてサンフランシスコ条約によって無効になるのでしょうか。
日本政府はこの理屈を正当化するためにある言葉を作り出しました。それが、「北方領土」という言葉です。
①日本政府はサンフランシスコ条約により千島列島は放棄した。
②しかし、南千島は千島列島ではない。
③ゆえに、南千島を「北方領土」と呼んで、千島列島とは無関係の島と認識させよう。
④元々ハボマイとシコタンは千島列島ではないから領有権を放棄していない。
⑤以上より、これら4島は北方領土というカテゴリーにまとめよう。
北方領土という言葉は日本国民に向かい、サンフランシスコ条約と矛盾していないことを周知させるための「方便」だったといえるでしょう。
この考えは、ヤルタ協定によって4島を譲り受けたソ連、現在はロシアにとって受け入れられないものです。そこでロシア側の考えを見てみましょう。
北方領土問題についての世界の認識
ロシアの意見は世界のスタンダートな意見とほぼ同じと言えます。ブリタニア百科事典によると、
①千島には最初ロシア人が住み着いた。
②1855年、日本が南千島を奪い取った。
③1875年には日本が千島列島全てを奪い取った。
④ヤルタ協定で日本はソ連に島々を譲り渡した。
⑤現在、日本は南部諸島をめぐってロシアと協議をしている。
この記述をみると、非常に巧妙な書き方をして、日本側とロシア側の主張のどちらからも中立といえます。
まず、「千島」と「南千島」を使い分けています。つまり、南千島は「千島」とは別で、日本はサンフランシスコ条約に反する主張とまでは断定できない。
次に、日本は「島々」をソ連に譲り渡した、これは仮に南千島は千島列島ではないにしても、日本の島々を譲り渡したヤルタ協定は有効である、と解釈できます。
結局、日本とロシア以外の国々はヤルタ協定とサンフランシスコ条約に則って解決しろと言っているのでしょう。そして、その解決方法はロシアにも有利なのでロシア側もこれと同意見であるといえます。
日本人である私もこのスタンダートな意見が正しいと思います。しかし、ロシアが今もなお強硬に北方領土問題を譲らないのはもう一つの理由があるためです。それは、中国とロシアの国境問題です。
二枚舌の中国
ロシアと中国は国境を接しています。そして中国側の主張では現在のアムール川南部のみならず、その北方対岸のロシア領も中国固有の領土と主張しています。
昨今では、アムール川北方対岸のロシアの村々に大量の中国人が移住しており、ロシア人の村民より中国人の方が多く住んでいます。
この事態に困惑したロシア人の住民はプーチン大統領に、中国人が村を占拠してこのままでは中国領になってしまうので何とかしてほしいとの陳情を出しています。しかしロシア政府はいまだに手を打てていないのが現状です。
もし、ロシアが日本に北方領土を返還すればどうなるでしょう。おそらく中国もアムール川北方も中国のものなので返還をもとめてくるでしょう。
そのためロシアとしては日本に北方領土を返還できないとの事情があるのです。
しかし近年中国は尖閣諸島は中国領だと主張しています。1950年中国の周恩来が台湾を含めて中華人民共和国の領有権の声明を発表し、尖閣諸島も台湾に含まれるので日本のものではないという理屈です。
ここでは中国は尖閣諸島も北方領土と同じく、戦前の日本の勝手な支配によるもので、敗戦により日本の領土ではないと主張しています。
中国の考えはこうです。
①北方領土は日本のものである。だから、アムール川北方も中国のものである。
②北方領土はロシアのものである。だから、尖閣諸島も中国のものである。
…という手前勝手な理屈を述べています。
そのため、ロシアとしては北方領土を返還するしないに関わらず、中国を利することになっているためこの問題はロシアにとっても難題といえるでしょう。
今後の解決の可能性
ロシアは北方領土返還で日本からの経済援助を受けれるが、同時にアムール川北方に中国の領有権を認めることになりかねません。返還しないと日本との関係は冷え込んだままです。
日本側は理屈の面で相当無理があります。一番問題なのはヤルタ協定の有効性です。この部分をロシアと協議して同意を得なければ北方領土返還は難しいでしょう。
また北方領土が日本固有の領土だとするなら、中国側のいう尖閣諸島の問題についてもなんらかの理屈をつけなければなりません。
まとめると、
① ロシア側は中国との国境問題と日本との経済提携の問題
② 日本側は北方領土、および尖閣諸島が日本領である正当理由
この2つのクリアが必要と言えるでしょう。
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