1ヶ月以上続いた香港でのデモ。
暴徒化して衝突が起きてケガ人が発生しただけでなく、逮捕者も出たり、空港でデモが起きて一時空港が封鎖されるなど、世界中で大きく報道される事態になっていました。
日本でも、たびたび香港デモの様子が取り上げられていましたね。エンタメばかり優先される日本で、これだけ社会情勢ニュースが毎日のように報道される時点で明らかな異常事態です。
ただ、
「なぜ、香港でこんなにデモが起きてるの?」
と思ったかもしれません。
香港の市民は何に怒っていて、何を不満に感じてデモをして、なぜこれほどデモが長期化したのか?それは香港政府の「逃亡犯条例」と中国政府が関係しています。
この記事では、香港でもの裏側をわかりやすく解説します。
また、香港という国がいかに特殊に成立している国なのか。ここに至るまでの経緯もお話しながら、できる限りカンタンに解説していきます。
「逃亡犯条例」の改正とは
まず今回のデモの発端は「逃亡犯条例」
本条例をザックリいうと、犯罪者の引き渡し条例。「もし香港に他の国の犯罪者が逃げ込んだら、要請した場合犯人を逮捕・引き渡ししてね」というのが逃亡犯条例です。
これだけ聞くと、良い条例ですよね。
例えば香港人が日本で犯罪をして、香港に帰ってしまったとする。日本は犯人の引き渡しを要求するも、条例がなければそれに応じる必要がない。
つまり一旦国を出てしまえば犯人が裁かれない可能性も出てくるわけで、むしろ逃亡犯引き渡し条例を結んでいない香港が無責任に感じるほどです。
ただ、香港政府は中国とこの条約を結ぼうとしました。
この条例が通ってしまうと
中国:「香港。お前のところの国、怪しいヤツがいるんだけど逮捕してくれや」
という言い分が通ってしまいます。
後述しますが香港は中国と違う国であり、同じ国でもあるという特殊な立ち位置です。そもそも民主主義と共産主義では考え方も違うし、香港では独立と併合が常に対立しています。
中国からしてみれば、中国に反発する香港人はジャマでしかない。そんな邪魔な活動家を「こいつ、中国で起きた事件の容疑がかかってるから逮捕して本土に送って」とカンタンに拘束できるようになってしまうわけです。
だから香港人は、「逃亡犯条例」で自由を失うことを恐れています。
中国に反論する人間は、いいがかりをつけて誰でも投獄されてしまうリスクがある。そうなければ香港独立の意見を誰も言えなくなるし、いつかは完全に中国に飲まれてしまう可能性が高い。
今まで中国に徐々に圧力を強化されてきた香港。
今回の逃亡犯条例にここまで香港人が反対するのは、「これ以上はデットラインだ」と香港人が認識しているから。それほど、香港人にとっては影響のある条例ということですね。
そもそも香港という国はどんな立ち位置なのか?
香港の特殊性は大きく分けて4つです。
①香港は共産主義への過渡的措置として、政治的な混乱を防ぐため、香港政府の存在が認められていること(一国二制度)
②香港政府は事実上中国政府の委託者の地位にすぎないこと
③議員や一般市民も中国政府へ批判的であれば制裁が加えられること
④香港市民は自分たちを香港人という独立国家の国民だと考えていること
一国二制度とは
まず、香港と中国は”いちおう”同じ国です。
ただし何となく聞いたことがあると思いますが、香港と中国はほぼ別の国ではあります。少なくとも「日本のなかの東京」「日本のなかの大阪」みたいなポジションではありません。
そもそも香港はイギリスの植民地として栄えました。
1950年代には製造業のハブとしての役割を果たす東アジア随一の金融センター都市であり、政治的も香港は自由主義陣営。中国で迫害を受けた人たちを受け入れる役割もありました。
ところが、1997年に香港は中国に返還。
ここで問題なのは、中国は共産主義国家であることです。
端的にいえば、個人の財産権を認めない政治体制。
香港が中国政府に完全復帰すれば、東アジア随一の金融都市が消滅する可能性もあり、結果的には2047年までの50年間、外交と国防以外は香港政府の自治を認めることになったのです。
「香港政府」とは、香港の自治行政府をさします。
つまり、中国国内には、中国本土を政治支配する中国政府と香港政府の2つの行政府が存在するわけです。これが「一国二制度」と呼ばれるものですね。
だから、分類上香港は中国の一部。
ただし、中国の指図を受ける必要がない立場にいるため、実質的には使っている文字から政治体制、発展具合までなにからなにまで違うという状況になっているわけです。
本当に香港政府に自治はあるのか?
理屈上、香港は中国に口出しされるポジションではありません。ただ、お察しの通り香港の政治には常に中国からの干渉がつきまとってきました。
例えば、香港トップで大統領にあたる「行政長官」の選出方法。
これは有権者のわずか6パーセントからなる選挙委員会により選出されます。香港に住んでいる一部の人の意見しか反映されないわけですね。
この時点で民主主義とは言えません。
おまけに選挙委員会は中国政府に忠誠を誓わなければならず、中国政府のいいなり…そんな選挙委員会が、香港政府のトップである行政長官を選ぶ。
もはや、行政長官は中国政府から任命されたも同然です。
ある民主派議員は中国政府への忠誠を拒んだため、高等法院により議員資格が剥奪。また、中国の民主化を主張していた香港のある富豪が中国政府によって拉致されたとのニュースも世間を騒がせました。
香港政府は中国政府からの制裁や強い圧力のもとにあります。だから議員は自分の立場を守るためには、中国政府の言いなりになるしかない事情があります。
香港人と中国人の関係
では、香港の一般市民は中国をどう見ているのでしょうか?
香港市民の帰属意識の調査結果によると、自分を中国人だと思う香港市民はわずか15パーセント、若者に至っては3パーセントしかいませんでした。
香港市民は自分たちを「中国人」ではなく「香港人」と認識しており、中国と完全に1つの国になることを望んでいるのは一部だとデータにも現れています。
それでも香港政府が中国よりの政治をするのは、香港で議員として生き残っていくためには(あるいは、自分の命を守るためには)中国の言いなりになるしかないから。
という事情があるわけです。
香港デモの背景と本質
香港の事情を知ると、香港人が逃亡犯条例に猛烈に反対した理由。
そして逃亡犯条例が改正されても沈静化しない理由も見えてきます。
香港の返還後、中国はじわりじわりと香港の共産主義化を進めてきました。
自分たちを香港という独立国家の国民と考える香港市民にとっては、今回の逃亡犯条例の制定は銃弾を一切使わない侵略戦争と同じです。
逃亡犯条例の改正案が可決されれば、香港に中国本土の警察権力の行使が可能となり、一国二制度が瞬時に崩壊してしまう可能性が極めて高いからです。
香港人 VS 香港政府&中国政府
今回のデモに限らず、常に香港はこんな状況に置かれているわけです。
だから今回の逃亡犯条例が撤回された(もう1回持ち出してくる可能性も十分にあると思いますが)としても、香港政府へのデモが続いている理由も中国への不満です。
自治権を維持しようとする香港。
自治権を侵食しようとする中国。
この2つの対立が終わらない限り、今後もまた違う条例でデモが発生する可能性も十分ありますし、今後香港の治安自体が悪化していく可能性もありますね。
香港の特殊性と中国の対立がデモの根本的原因
香港と中国の長きにわたる対立が根本にある以上、逃亡犯条例が撤回されたからすべての不満がキレイさっぱり無くなる…なんてことは一切ありません。
香港デモは長期化することが予想されます。
中国&香港政府:他の方法で、香港の自治権を狭めたい
香港人:これ以上譲歩して、天安門の二の舞は避けたい
もっとも、香港は東アジア屈指の金融都市。
中国の辺境の地であるウイグル自治区などは徹底的に弾圧されても世界はそれほど声を挙げませんが、世界中に影響を与えかねない香港への武力行使は中国の信頼に大打撃を与えます。
だからこそ中国も香港に対しておおっぴらな武力行使はできないし、今回のように「武力を伴わない侵略」を上手に使ってきているわけです。
「香港?中国と何が違うの?」
「なんでずっとデモなんてやってるの?」
と思ったかもしれませんが、香港の(実質的な)独立。それは香港人のためでもあり、金融センターが崩壊すれば世界中が大打撃を受けるから、世界のためでもあります。
ぜひこの機に、香港の根本的な中国との対立に目を向けてみてください。
コメントを残す